なぜ訴えるのか

温暖化や気象災害の激甚化など、気候変動の悪影響が世界各地で頻発する中、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)などの最新の科学によれば、2020年に生まれた子どもたちは1950年生まれの世代の4~7倍、気候変動の悪影響を受けると予測されています。

またIPCCは、CO2の累積排出量と平均気温の上昇が比例関係にあること、地球の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃に止めることが極めて重要であることなどを報告しています。そして、気温上昇を1.5℃に抑えるには、世界全体でCO2排出量を、2019年比で、2030年までに48%、2035年までに65%削減し、2050年にはカーボンニュートラルを実現していく必要があることも示しています。さらにIPCCは、この10年で行う対策が、数千年先まで影響を与えると警告しています。

そこで国際社会は、気温上昇を1.5℃に抑えることを決意し(COP26グラスゴー気候合意)、脱化石燃料・再生可能エネルギーの時代へと移行していくことを確認しました(COP 28)。実現には、火力発電など大規模排出事業者の取組が不可欠です。しかし、現状では1.5℃に抑えることができないどころか、3℃も上昇してしまうことが懸念されています。とくに日本はG7国のなかで唯一、石炭火力の廃止年を示していません。逆に、「ゼロエミッション火力」と称して火力発電での水素・アンモニア混焼、CCSを公的資金で支援し、また、電気料金に転嫁させ、再生可能エネルギーの導入も遅れています。

近年、世界で国や企業に対する気候訴訟が提起され、勝訴判決も現れています。誰もが、安定した気候のもと健康的に暮らす権利を持っています。気候変動によってこのような人権が侵害されることに対して、法律の力で、政府や企業に十分な気候変動対策をとることを求める訴訟、それが気候訴訟です。

そこで、日本に住む16人の若者たちが日本の主な火力発電事業者10社(日本のCO2排出量の約3割を排出)に対し、少なくとも、IPCCが示す水準まで排出を削減することを裁判所に求めました。それがこの訴訟です。また、この訴訟を通して、気候変動対策の重要性・緊急性が広く日本社会に共有され、理解と共感が広がることもめざします。

これまでの流れ

年月日 内容
2024年8月6日 名古屋地裁へ提訴
2024年10月24日 第1回期日

 

若者気候訴訟Q&A

Q1. 若者気候訴訟ってどんな訴訟?

気候変動の脅威にさらされている中、若者たちが気候変動の悪影響から守られ、将来も安定した気候のもとで過ごせるように、2024年8月に提起した民事訴訟です。

日本では全国の若者が原告となった最初の気候訴訟になります。

Q2. なにを訴える訴訟なの?

日本最大の温室効果ガスの排出源である大手電力会社10社に対して、科学に基づき国際的に合意されている水準(1.5℃に気温上昇を抑えるための水準)で、温室効果ガスの排出を削減するよう法的な義務づけを行うこと、それに沿うように排出削減を行うことを求めています。

この裁判は2024年8月6日、名古屋地方裁判所で起こされました。

被告である主要の電力会社は、火力発電所を多く持っており、電力の販売分も含めると、この10社だけで日本のエネルギー起源のCO2排出量の3割を超えます(詳しくは「Q. なぜ電力10社を被告としたの?」をご覧ください)。そのため、これらの事業者のCO2の排出量について、気温上昇を1.5℃以内に抑えるという科学的・国際的な目標に合うように削減を義務付けることを求めています。

具体的には、事業者の2019年の排出量に比べて、2030年までに48%、2035年までに65%、CO2の排出を削減することを法的義務の水準としています。これはIPCC 第6次評価報告書統合報告書、つまり最新の科学的知見に基づいて、世界の平均気温上昇を1.5度未満に抑えるために示された水準です。パリ協定やグラスゴー気候合意、COP28決定などの国際的な合意も、こうした1.5℃を目指す科学的知見に基づいています。

被告は以下の10社です。

株式会社 JERA、東北電力株式会社、電源開発株式会社(Jパワー)、関西電力株式会社、株式会社神戸製鋼所、九州電力株式会社、中国電力株式会社、北陸電力株式会社、北海道電力株式会社、四国電力株式会社

Q3. 被告の火力事業者はどんな反論をしているの?

(2024年12月時点)

被告らは、原告らの請求は内容が一義的に定まっていない「将来の請求」であって、現在、民事訴訟で訴えることのできる請求ではないと主張しています(民事訴訟法135条)。この主張は「本案前の抗弁」という反論に分類され、請求を基礎づける法的、事実的主張の審理に立ち入ることなく、門前払いすべきだと主張するものです。そのため、被告らは原告らが訴状で詳細に主張した気候変動の科学、被害、国際的合意、被告らの二酸化炭素の大量排出といった具体的な事実等に向き合うことなく、形式的な反論をするにとどまっています。

しかし、裁判所は第一回期日において本案(=請求を基礎づける法的、事実的主張)への認否反論をするよう被告らに求めました。そこで、第二回期日以降において被告らの本訴訟への具体的なスタンスが明らかになることが予想されます。

Q4. どのように裁判をサポートしたらいい?

気候訴訟は、市民が声を上げ、社会を変える力を示す象徴的な取り組みです。この動きをさらに広げ、より良い未来を実現するためにも、若者気候訴訟へのサポートをお願いします。一緒に、持続可能な社会を目指しましょう。

【傍聴に行こう!】

裁判の傍聴に大勢の人が訪れることで、裁判官やメディアに、この訴訟が社会から注目されていることを伝えることができます。ウェブサイトで最新情報をチェックして、裁判の傍聴に行ってみましょう。傍聴の後は報告会にも是非ご参加ください。

【SNSをフォローしよう!】

若者気候訴訟のウェブサイトやSNSをフォローして情報を広げたり、身近な人と気候訴訟のことを話題にしてみてください。

【寄付をお願いします!】

訴訟の継続に必要な費用を寄付によってサポートする方法もあります。こちらでぜひご確認ください

Q5. 海外の気候訴訟ではどんな判決が出ている?

世界では、2022年末までに2,180件の気候訴訟が提起されています。オランダの最高裁判所は2019年に、温室効果ガス排出削減目標の引き上げを国に求める判決を下しました。この判決を皮切りに、世界では気候変動対策を求める市民の声を後押しする判決が下されるようになってきています。

例えば…

【米国・モンタナ州の若者気候訴訟:アメリカ初の勝訴】

モンタナ州の憲法では、クリーンで健康な環境を保持することが定められています。しかし、2011年に州環境政策法が改正され、州政府が化石燃料の使用や生産を制限することが事実上禁止になり、環境影響評価でCO2など温室効果ガスの影響を評価しなくても良いことに。
この法改正が違憲だとして若者16人が2020年に訴訟を起こし、2023年8月、地方裁判所は法改正が「違憲である」と判決。これがアメリカ初の気候訴訟での勝訴となりました。この決定は2024年12月、モンタナ州最高裁でも承認されました。

【韓国の若者気候訴訟:アジア初の画期的決定】

韓国の法律で定められている2030年の排出削減目標などが不十分であること、2031年から2049年までの排出量削減計画が策定されていないことは「基本的人権の擁護に違反する」として、若者19人が訴訟を起こしました。
2024年8月に韓国憲法裁判所は原告の訴えを部分的に認め、2031年から2049年までの削減目標を2026年2月末までに策定するよう韓国政府に求めています。

【オランダ・シェル訴訟:企業にも人権を保護する義務がある】

世界的な石油企業ロイヤル・ダッチ・シェル社に対し、オランダの環境団体と17,000人の市民がシェルグループ全体の温室効果ガス排出量を2030年までに2019年比45%削減するよう求めて提訴しました。
2021年に地方裁判所は、民間企業にも人権を尊重する義務があるとして、シェル社に削減を命令し市民側が勝訴。2024年11月の高等裁判所では、残念ながら原告の請求は棄却されました。シェルのスコープ1の2030年目標として、2016年比50%(2019年比では48%)が審理中に設定されたため、削減義務の違反の切迫性が現状ないということが理由ですが、気候変動から守られることを人権と認め、企業に科学に基づく危険な気候変動の影響を緩和する義務があることは認められています。

Q6. なぜ電力10社を被告としたの?

被告10社のCO2排出量は膨大であり、10社が本気で排出削減に取り組めば、日本全体の気候変動対策を大きく前進させることができます。

電力事業は、日本全体のエネルギー起源CO2排出の約4割を占める最大の排出源です。うち、被告となった10社のCO2排出量(2019年度)は計3億3740万トンで、これは日本のエネルギー起源CO2排出量(10億2900万トン)の33%にあたります。

しかし、被告らは再生可能エネルギーへの適切な転換などの十分なCO2排出削減策をとらずに、火力発電所を温存させる計画を進めています。これは平均気温上昇を1.5度未満に抑えるための世界的な動きに逆行するものと言わざるを得ません。

この問題に焦点をあてるため、この裁判では、大手電力会社である被告らを裁判の相手方にしたのです。

Q7. 火力発電を減らしたら電力不足にならないの?

いきなり火力発電所を全て停止させれば電力不足になります。しかし火力発電削減の目標を明確にし、段階的に火力発電を減らし、それと同時に再生可能エネルギーの導入と省エネルギーを抜本的に進めていけば、電力不足にならずに火力発電を減らすことが可能です。

1.5℃以内に温度上昇を抑えるために、日本でも2035年までに再生可能エネルギーで電力の80%をまかなうことが可能だとするシナリオが示されています。このシナリオでは石炭火力と原子力を全て停止しても、再生可能エネルギーの大幅導入、蓄電池や送電線の増強、IT技術の活用によって柔軟に電力を供給できます。この時点では既設のガス火力である程度カバーが必要ですが、2035年以後も段階的に火力を減らしていき、2050年には再生可能エネルギーで100%電力をまかなえるとするシナリオも調査機関によって出されています。

海外でも様々な方法によって安定的に再生可能エネルギー中心の電力を供給する方向へ向かっています。これらの調査研究や先行事例を参考にし、国や企業が野心的な目標を掲げていくことが重要です。

Q8. 火力発電を減らしたら脱原発が進まないのでは?

脱火力と脱原発は両立可能であり、原発を気候変動対策とするべきではありません。日本では、2011年の原発事故以降、多くの原発が停止したために火力発電の割合が増え、CO2排出量が増大しました。その後、2014年度以降はCO2排出量が減っていますが、これは再生可能エネルギーの普及と省エネが進んだことが主要因です。2014年以降も原発の割合は低いままであり、これまでのところ原発がCO2排出量の削減に大きく寄与しているとは言い難い面があります。原子力は定期点検や故障・事故などで停止することがあります。石炭火力はその場合に備えて必要とされ、再生可能エネルギーの拡大を抑制する役割も果たしてきました。

再生可能エネルギーと省エネの普及によって、原発に頼らない脱火力を進めていくことこそが重要です。

Q9. 若者が原告となったのはなぜ?

原告が今回の訴訟を起こすにあたり、自らの生活や健康、人生に気候変動が及ぼす悪影響について、以下のような声が上がりました。

  • 自身や家族、知人が熱中症になった
  • 屋外での運動や活動ができない
  • 授業やクラブ活動にも制限が出ている
  • 夏場暑くなって電気代が高くなり、バイトを増やさなければならなくなった
  • 雪が少なくなり、スキー場が閉鎖されてしまい、遠方のスキー場に行かなければならなくなった
  • 家族や友人が豪雨や巨大台風、河川の決壊、山火事の被害に遭った、又は遭いそうになった
  • ここ数年の間にも気候の異変を実感し、将来も悪化していくことに不安や恐れを抱いている
  • 日常的に電気を使わなければならないが、火力発電による電気を使うことでCO2排出に加担し、加害者になっていると感じる

※ほか、原告のメッセージについて詳しくはこちらをご覧ください。

このような今まさに生じている被害に加えて、若者世代は、それまでの世代よりもさらに過酷な気温上昇に晒されることになります(図)。この訴訟の原告たちは、自分たちや、次世代、さらにその先の将来世代の人権侵害を防ぎ、「明日を生きる」ため、この訴訟を提起しています。

また、主にアジア、アフリカ、南アメリカ等の発展途上国などの人々や地域(MAPA=Most Affected People and Area)は、より深刻な影響を受けている現状があります。このような人権侵害が発生している背景には、主に先進国が化石燃料を消費し、歴史的に温室効果ガスを大量に排出してきたことがあります。原告の中には日本で暮らす者として気候正義の観点から責任を感じ、裁判を起こすに至ったという人も少なくありません。

出典:IPCC AR6 SYR SPM Figure SPM.1c 図は国立環境研究所IPCC 第6次報告書 統合報告書 解説資料より転載 https://www-iam.nies.go.jp/aim/pdf/IPCC_AR6_SYR_SPM_230328.pdf
Q10. 原告の追加募集はしているの?

原告になりたい方、訴訟へのかかわり方に関心がある方は、まずは弁護団までお問い合わせください。